シリーズ『おすすめの1冊』第96回です。
僕がおすすめする本や、話題の本などをご紹介していきます。
今日、ご紹介するのは、長野まゆみさんの「ぼくはこうして大人になる」。
『ぼくはこうして大人になる』長野 まゆみ
はじめに
同性愛を隠したい気持ちと、受け入れてほしい気持ちのまどろみ。もし、なんの気後れもなく誰にでも話すことができれば、というのは妄想でしかない現実。ただそれだけで日々疲弊する、好きな人が身近にいればなおさらである。
一方で、「自分の感情はどうせ認められない、気持ち悪がられるだけ」、と思いつつ、どこかでは「受け入れてくれまいか、あわよくば付き合ってくれまいか」と思うのは、相手が同性でも異性でも一緒だろう。まして中学生なら、告白したことで気持ち悪いと思われ、学校での自分のポジションも危険があるのは多くの人が経験しているのではないだろうか。
あらすじ
印貝一(いそがいはじめ)は幼少の頃、双子の姉兄に女の子だと思わせられて育った。そのせいできちんと自分の性に気づいたころにはすでに女の子には興味をもてなくなってしまった。自分の違和感になんとか耐えながらも平穏な中学校生活を送っていたが、転校生の七月(なつき)が一をひっかきまわし始める。そのせいで唯一自分の性について知っている友人とのヒビ、ひそかに恋をしていた友人とのヒビ。すべてがゆっくりとずれていく。
感想
140ページととても短い作品ですが、彼らの人間関係、立場、矛盾した感情などとても豊かに描いています。男の子同士の隠れた感情や勘違い、照れや恰好を付けたがるといったことのすべてが彼らのヒビの原因で、もどかしさを感じます。青春小説に欠かせない成長のあるストーリーとはちょっと違って、彼らなりの人間性をもとに展開して行きます。
でも確かに小学校の頃と同じようにはいかないよなと感じる場面があり、そこで大人になりつつある人間関係に触れていきます。じわりと冷えたり、温かくなったりする作品でした。