シリーズ『おすすめの1冊』第7回です。
僕がおすすめする本や、話題の本などをご紹介していきます。
今日、ご紹介するのは有川浩さんの「明日の子供たち」。
『明日の子供たち』有川 浩
「90人の子供が住んでいる家がある。」この文章から始まる。ドラマでも取り上げたことがあるテーマでピンとくる人も多いだろう。この本は児童養護施設の子供たちをテーマにした物語である。児童養護施設に対してどのようなイメージをお持ちだろうか。虐待が近年増えているため、関心を持つ人も多くなってきていると思う。しかし、児童養護施設の生活まで想像することは難しいのではないか。「明日の子供たち」は、児童養護施設の生活、福祉の現場の実態、職員や子供たちの抱える悩みなど疑似体験的に学べる一冊だ。
有川浩の作品のイメージは自己啓発である。特に次の二つの描写をよく見かける。一つ目は、読書をしていない人とそうでない人にある面で差ができていることを表現している印象がある。この「明日の子供たち」では直接的にそれを描かれているシーンがあるので探してみてほしい。
二つ目は頑固で保守的な人物と若い改革的な意見を持つ人物の対立である。この描写は有川さんの価値観や経験が詰まっていると思う。「明日の子供たち」では、主人公三田村慎平と施設の副施設長、梨田先生のバトルがそれにあたる。ほかにも「フリーター、家を買う」や「ストーリーセラー」では、父親と子供の対立がある。ざっくり言えば、世代ごとの考え方の違いによる対立だが、主人公の性格による解決の仕方が違って面白い。
主人公はソフトウェア会社を辞めたあと施設で働くようになった三田村慎平である。全く関係ない会社から福祉の世界に飛び込んだわけである。この物語の特徴は施設職員や施設の子供たちと世間とのギャップをリアルに描いていることだと思う。素人の三田村慎平と現実をよく知る職員たちや子共たちとのやり取りが、まさに世間の勝手なイメージと現場のギャップなのである。
集団生活を強いられる施設は、なにかと不自由な面も多い。だが、子供たちにとっては家である。施設での日常を味わっていただきたい。
主人公の慎平ちゃんはまっすぐすぎるというか、子供じみているというか、彼の発言に思わず「おいおい」と思ってしまう。おもしろいのは慎平ちゃんが最初に会話する施設の子供である、かなちゃんがとても大人びていることだ。二人は喧嘩をするのだが、二人の最初の喧嘩はとても重たいものである。その喧嘩は施設の子供の心を映している。さらに、かなちゃんの主張にぼくの抱いていた施設育ちの子供のイメージの違いに気づかされた。ただかわいそうだと思っていたぼくのしったかぶりをもやもやと受け入れざるを得なかった。
かなちゃんと慎平ちゃんの喧嘩はその後落ち着く。そこでも慎平ちゃんのまっすぐな気持ちがかなちゃんの気持ちに届いたのかもしれないのだ。(文章変ですけどそんな感じです。)
他にも和泉先生、猪俣先生、久志など登場人物の過去に回想しながら物語が進む。冷静な3人は、素直に疑問や自分の意見をぶつけてくる素人職員慎平ちゃんに振り回されていく。だが、慎平ちゃんのまっすぐさにやれやれと思いつつ、その良さを認めていく。知らず知らずに影響し合い、成長していく登場人物たちにぼくも知らず知らずのうちに成長しているのかもしれない。