シリーズ『おすすめの1冊』第8回です。
僕がおすすめする本や、話題の本などをご紹介していきます。
今日、ご紹介するのは、2018年6月8日には映画も公開され、Amazonの売れ筋ランキング 日本文学部門ではベストセラー1位にも輝いた宮下奈都さんの「羊と鋼の森」。
『羊と鋼の森』宮下 奈都
ぼくは、たいてい文庫本の裏表紙やインターネットであらすじを読んでから、買う本を決める。でも、今回はタイトルと表紙の絵だけで読んでみたいと思った。『羊と鋼の森』というタイトルだけでどんな話か想像できるだろうか。ぼくはできなかった。これは、ピアノ調律師の物語である。
この物語は、淡々と進んでいく。青年の性格通りである。ゆえにぼくがこの物語の読むスピードは遅かった。でも、じわじわと早くなっていった。そんな、スロースターターのような読書をした。穏やかで、派手さは全くない。でも青年の静かでしっかりとした感情が生き生きと描かれている。小説は第三者的な視点になる場合と読者が主人公になりきってしまう場合とあるが、これは両方を味わっていた気がする。ある場面では、親のように見守ってあげている気持ちになり、一方では悩みを共有してしまっている。何もかも、ゆっくりと物語や、青年、ほかの調律師たちに惹かれていく。
この物語の魅力はどこにあるのだろうか。主人公のひたむきさか、世界観が広がっていく過程なのか、調律というなかなかなじみの少ないであろう職業にふれられるというところなのか。主人公も森に迷っているのと同じように、ぼくもまた、この本の感想のゴールが見いだせないでいる(汗)
個性とは何か?と聞かれたらどのようにお答えになるだろうか。なじみはあるが、なかなかすぐに説明できる言葉ではないと思う。調律には、正解がない。気候や部屋の様子によってある程度マニュアルがあるが、固い音を好むお客さんもいれば、柔らかな音やタッチを好むお客さんもいる。だから、調律には正解がない。ただし、満足はある。でも、お客さんの満足と調律師の満足が必ずしも合致するわけでない。これが個性なのだと思う。
小説なのだから、個性があって当たり前だし、今まで個性を感じずにたくさんの小説を読んできたのかと考えもした。うん、「個性」云々とは、とくに考えずに読んできている。なんとなく読んでいることも多いし、好きなお話の傾向も偏っている。ただ、ぼくはこの本に出合って調律師たちの会話や主人公とお客さんとの会話を読みながら、個性ってこーいうことかなと思えた。その時間が楽しかった。それでいいですかね。(笑)