MENU

【シリーズ】おすすめの1冊『コンビニ人間』村田 沙耶香

  • URLをコピーしました!

シリーズ『おすすめの1冊』第17回です。
僕がおすすめする本や、話題の本などをご紹介していきます。

今日、ご紹介するのは村田沙耶香さんの「コンビニ人間」。

目次

『コンビニ人間』村田 沙耶香

 一般的とか普通という状態はとても安心する。だが、逆にそれから外れたら極度の不安に陥るのが人間だと思う。不安は、必ずしも自分が枠から外れている時とは限らない。身近な人物の中に独身でアルバイトしかしたことのない30代がいたら、それを他人事として聞かずにはいられないのである。

 周りとは違う感覚を持つ古倉がコンビニのアルバイト店員として生きていく話。古倉は幼いころ、公園で死んでいる鳥を見つけて焼き鳥にしたらおいしそうだねといった女の子である。小学生の頃、喧嘩している男の子を誰かに止めて!と言われて男の子を椅子で殴って止めるような女の子である。うん、たしかに変わっている。

 大人になって古倉は周りに合わせることを覚えていく。古倉はただ、周りと違う生き方や考え方に周りがいちいち聞いてきたりおせっかいされたりすることが面倒なだけ。人間関係や社会的な多数派の行動はマニュアルがない。でも、コンビニはマニュアルがある。それ通りに動けばみんなと同じになれる。自分らしくと高らかに歌う現代社会で、古倉が自分らしく生きようとすると異端児として扱われてしまう。居場所、普通、支持持ち人間、相手のため、なにがその人にとって幸せなのか。多様性とは何か。たしかに何だろうなと考えてみると面白い。なんとなくという答えで終わっていることも少なくない。

 白羽さんは縄文時代と現代社会は何も変わっていないという。その社会に溶け込めなければ排除される仕組みがずっと変わっていないと。
白羽さんはかなり腹の立つ人種である。コンビニ店員を見下し、遅刻に言い訳するし、お客に住所を聞くなどでかなり問題児である。でも、彼の悩みは的を射ている部分がある。プライバシーを根ほり葉ほり聞いた挙句に満足できないと拒否されるというありがちな会話である。これを強姦と例えたのはうまいなと感心した。白鳥さんはバイトをクビになる。そのあと白鳥さんがコンビニの前をうろうろしているところに古倉と出会う。古倉とのやりとりは愉快である。古倉の冷静な心の中の突っ込みがいい。白鳥さんの支離滅裂な発言とどこか冷めていて、たまにそうかもしれないと共感している古倉の冷静さが面白い。

「ただ、少数派というだけで皆が俺の人生を強姦する。」

 どちらかというと白鳥さんが性犯罪者寸前の人間だと思っていたので……。とこんな感じだ。
この話はふつうに生きてきた人間たちが普通じゃない古倉を否定する場面が多々ある。普通じゃない姉にショックを受ける妹。普通じゃない古倉を気持ち悪るがる友達。普通じゃない古倉を激しく拒否する白羽さんの儀妹。彼女らは普通になることを古倉に求める。でも普通とは違う生き方を拒否する根拠は一切ない。その人のためってなんなんだろう。その人に普通を求めることで苦しめていることもあるのに、実際は自分が安心したいだけなのだろう。
コンビニ人間はだれかによくお説教する人にぜひ読んでほしい。あなたの言う普通とは何ですか。それを人に説くことは本当に相手のためを思ってのことですか。自分の安心を得るため、もしくは「ほら、言うとおりにしなかったからこうなったでしょ」と自分のせいではないことに保険を掛けるためですか。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次