【シリーズ】おすすめの1冊『卒業―追伸―』重松 清

こんにちは、りゅうまです。

シリーズ『おすすめの1冊」第23回です。
僕がおすすめする本や、話題の本などをご紹介していきます。

今日、ご紹介するのは重松清さんの「卒業」ですが、四篇あるうちの一つ「追伸」です。

『卒業―追伸―』重松 清

 読むのがしんどい読書は初めてだった。分量ではなく内容がしんどかった。

 敬一は小学1年生で母親を亡くし、父親の再婚相手を母として認めることがでない。母親は闘病の時の思いを日記に残した。父は敬一にその日記を再婚する前に、一度だけ読むように言って渡した。

 敬一はかたくなだった。中学生に、高校生、大学、就職と年を重ねても母親はたった1人だけだった。

 敬一の態度はまるで子ども。大人になりきれない少年。整理する時間がなく母親が亡くなり、ハルさんがきた。少年の中でまだ実母は死んでいないのかもしれない。 敬一はハルさんを他人として接し続けることで母親を守ってきた。

 実母はがんで亡くなった。敬一にはすぐに治ると伝えられていた。だが、現実はあらゆるところにがんが転移している末期がん。徐々に衰えていく母親。でも敬一はいつか元気になると信じている。なぜなら、母親は衰えた自分を見せたくないという願いで、亡くなる直前は敬一と会おうとしなかったのだ。だから、敬一は息を引き取った母親と対面することになるまで、まだ元気な母親しか知らなかったのである。何も心の準備が整わない敬一は六歳のまま止まっている。

 大学に出る敬一を見送るとき、ハルさんは母親の日記を手渡した。
敬一はページをゆっくり開いていく。そして空白のページだったはずのある1ページにハルさんからのメッセージが書かれてあった。敬一は激怒しハルさんと喧嘩した。汚れた、「いらん、もう、こげなもの」とハルさんにつき返した。ハルさんは日記を破る。

 すべては日記のせいなのだ。すべてのタイミングが悪かったと敬一も回顧している。日記を渡すタイミング、ハルさんが家族になるタイミング…。敬一には準備する期間が与えられてこなかったこともズレていった理由である。一番不器用なのは父親なのかもしれない。いや、登場人物全員が不器用なのだ。敬一の弟、敬一の妻、ハルさん、敬一、敬一の実母、敬一の父親。

 小説家になった敬一は母親にまつわるエッセイを書く。もちろん実母のである。敬一の創造でつづられるそのエッセイにハルさんの存在は全くない。小説ではなくエッセイなのに。

 一方で敬一は自分の態度に後ろめたさを感じているような気もする。本当はハルさんと仲良くしたい。だけど実母を心の中にずっととどめておきたい。その葛藤が、自分でも気づかないような葛藤が敬一の書くエッセイに表れていると思う。

 子どものようなと言ったが、敬一の気持ちは否定できない。だから、敬一には大人になれよと言いたくなるが、口に出して言うことも心の中で言うこともできなかった。でも、ハルさんのことを思うといたたまれない。ハルさんがとてつもなく意地悪なキャラクターならとても楽だなと思ってしまった。

 この物語には誰が悪いとかはない。敬一が割り切ってくれれば、ハルさんがもう少し年をとってから敬一と出会っていれば、父親が、母親が、死と向き合う時間を敬一に与えていれば…。考えればもっといい方法があったのではないかと思う。でも理想通りにはいかずにもどかしい。だから余計にしんどくなってしまったのだろう。

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