【シリーズ】おすすめの1冊『朝が来る』辻村 深月

こんにちは、りゅうまです。

シリーズ『おすすめの1冊」第32回です。
僕がおすすめする本や、話題の本などをご紹介していきます。

今日、ご紹介するのは辻村深月さんの「朝が来る」。

『朝が来る』辻村 深月

栗原家のもとに「子どもを、返してほしいんです。」という電話が入る。

第二章
 栗原佐都子の旦那、清和は無精子症で、この夫婦は子どもを授かることができない。そこで、出会ったのが、ベビーバトンという養子縁組を支援する組織だった。手続きをし、そこから養子を授かることになる。朝斗と名付けられたその子の母親は、中学2年生の片倉ひかりである。そこで、ひかりは泣きながらこの栗原家に子どもを託したのだった。

第三章
 ひかりは同級生の彼氏と愛に溺れ、妊娠をしてしまう。教師であるひかりの両親は、ひかりに理想を押し付けながら育てていくも、ひかりの妊娠がきっかけで親子の関係がこじれていく。両親は中学受験を失敗したり、妊娠を経験したりする、思い通りにならないひかりに、いら立ちが募る。両親とひかりはどんどん思いがかみ合わなくなってくるのだった。

 子どもを無事に出産し、養子に出してもひかりの生活は元には戻らなかった。ひかりの経験が同級生の価値観をはるかに乖離させてしまっていたのだ。ひかりは大人になっていた。だが、ひかりが大人の階段を上ったのは性交したからではない。出産を通してひかりが考えたことやベビーバトンで様々な境遇の大人に出会ったからだ。

 17歳になったひかりは家を飛び出して広島のベビーバトンへと向かう。そこで一生懸命に働くことを決意するが、狂いだした歯車は止まらない。ベビーバトンが他団体に引き継がれ、辞めざるを得なくなったひかりは、紹介された新聞配達の仕事に就く。そこでもひかりは「働きもの」になろうと頑張る。

 想像以上に厳しい「働くということ」に戸惑いながらも、受け入れて頑張るひかり。そこでは年の近い「ともか」と仲良くなる。「ともか」から安心感を見出だし、いろんなことを打ち明けた。しかし、ある日「ともか」から「保証人になって」と言われる。翌日、「ともか」は仕事を辞め、数日後、保証人の欄に片倉ひかりとかかれた紙を持った男が現れる。筆跡の違う「片倉ひかり」という文字。払わなくてもよいはずの借金。どうすればいいのか、返すべきなのか、返さなくてよいのか、何もわからないまま追い詰められていく。もう逃げるしかない。黙ったまま職場を後にして、横浜のビジネスホテルで働き始める。だが、9か月後、借金取りの男たちに居場所を突き止められてしまう。原因は、新聞配達屋の自転車を勝手に持ち出し、黙って去ってしまったことに対する謝罪の手紙を送ったことだった。男に手紙を見せられて自らの失態に初めて気づく。自分の無知にいら立ち、働いていた店への裏切りに嘆き、ついに借金を返すため、ホテルのお金に手を出してしまう。借金を返して男たちに追われなくなったものの、犯罪をしてしまったことがじわじわとひかりを追い詰める。どこかで、ホテル内だけの問題になると思っていたのかもしれない。そして、ついにホテルの消えたお金がひかりと関係あることまでばれてしまう。

 『どうして相談しなかったのか。』ホテルの従業員、浜本さんが言うように、我々もそう思うだろう。でも、彼女はずっと独りだった。相談の仕方を知らないのだ。さらに優しい彼女は他人に迷惑をかけると思い、一人で抱えてきた。相談する、事情を説明するという行為がとてつもなく高い壁だった。それは、両親とひかりの溝の深さに比例するのではないだろうか。
 浜本さんとお金を返すことを約束し、向かったさきは神奈川県川崎市中原区のマンション。朝斗の住んでいるところだ。そして、ベビーバトンで働いていた時にこっそりメモした電話番号にかけるのだった。「子どもを、返してほしいんです。それが嫌ならお金を用意してください。」と。
 佐都子と清和は片倉ひかりと名乗る女に会って話をすることを決める。

 クライマックスは朝斗が主人公だと思う。ここでは「佐都子」ではなく「朝斗の母親」と描写される。
 ひかりは、朝斗を出産したことで人生が狂いだす。家にも学校にも居場所がない、働きたくても、頑張りたくても、続けられない。そして男に追われたり、金を盗んだりした。それでも、ひかりの生きる場所を見つけられたのだ。ひかりと栗原家が話し合った1か月後、事情を知った「朝斗の母親」はひかりをぎゅっと抱きしめる。
 ひかりの居場所は皮肉にも朝斗がもたらした。

 『あれだけ逃げ回っていた追い込みの男たちでもいいからひかりを見つけて、次にどうすればいい、ということを教えてほしかった。』というひかりの声は、両親の過干渉を物語っている。そんな両親の狭い考え方に辟易して、家を飛び出したはずなのに、ひかりの心には時折、こんな私をどう思うだろうかと想像し、そのたびに落胆する。どこかで両親に認められたいという思いがひかりの中でずっとあったのだろう。
 中学生で妊娠を経験し、高校生で髪を染めたり、煙草を吸ったりと両親の理想とは逆のことをしてきたが、両親には、『世間から一目置かれるひかり』ではなく、『自分のもとに生まれてきたひかり』をただ愛してほしかったのだ。
 条件付きの愛を求められたひかりとは対照的に、ひかりは自分の産んだ子どもを生まれてきてくれてうれしいという思いで接している。ひかりの経験にともなって描かれていく心理は、そういった純粋なやさしさが根源にあるのだろう。

 今回はあらすじを中心に紹介したが、いかがだっただろうか。ひかりの親の実態は現実とそう離れた描写ではないと思う。ぼくも親が注意しているのを聞いて、この人は本当に子どものことを思って言っているのか、それとも「ほら、あのとき言ったのに」と後で言って自分のせいにされない保険をかけているだけではないかと頭をひねることがある。いずれにせよ、叱られている子どもには判断できないことだ。

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