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【シリーズ】おすすめの1冊『みかづき』森 絵都

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シリーズ『おすすめの1冊』第51回です。
僕がおすすめする本や、話題の本などをご紹介していきます。

今日、ご紹介するのは森絵都さんの「みかづき」。

目次

『みかづき』森 絵都

あらすじ

22歳の大島五郎は、小学校の用務員として勤務していた。しかし、放課後には勉強を習いに多くの小学生が五郎のもとへと駆け寄ってきていた。五郎は教える才能があったのだ。その噂を聞きつけた、赤坂千秋が五郎のもとへ訪れ、「ともに塾で子どもを教えませんか」と誘うのだった。
 当時、塾の存在なんて皆無だった時代に「文部省の息のかからないところで自由な教育を」と立ち上がった千秋と、温厚ながらに信念を強く持っている五郎は、八千代塾を立ち上げ、波乱万丈の人生を歩み始めることになる。2人は結婚して3人の娘に恵まれるが、成長していくのは娘たちだけでなく塾も同じであった。時代とともに変わりゆく塾の立場、高まる需要に翻弄され、ぶつかることが増えていく2人。また、娘たちも間接的に塾の波に巻き込まれてしまっている。昭和36年から平成の半ばまでを描いた、塾とともに生きる家族の物語である。

みどころ

 主人公は、3人。大島五郎と赤坂千秋(大島千秋)、五郎の孫の上田一郎である。得に、一郎の話は全く別の小説かと思わせるような章であった。そこに世代の移り変わりが表されていると感じるのである。
 塾という言葉が全く広まっていない時代から塾を設立した五郎と千秋。当時の塾は「受験競争を故意にあおる悪徳業者」というバッシングにさらされる。時がたち、バブル後は塾が子どもの奪い合いに転じていく。生き残るには、補習塾か、進学塾か五郎も千秋も譲らない。
 大島五郎と赤坂千秋が塾を築き上げた一方で、一郎は塾に通えない子どもたちに、慈善事業の無償塾「クレセント」立ち上げる。祖父母を受け継ぎつつも新しい風を起こしてくれる。
 気の強い千秋と温厚な五郎の口喧嘩と内心のもやもやは、やはり教育において、何が正しいのかだれもわからないということなのだろう。千秋は、晩年に、どの時代の教育書もいまの時代の教育は駄目だと悲観していると、理想を追い求めた自分をあざけるように語る。千秋の角が丸くなった瞬間だった。

学校ってなんだ?

 千秋は公教育である学校を「太陽」、塾を「月」として例えているが、僕には、塾が「光」で、学校が「闇」という構図で映る場面が少なくなかった。というのも、学校教育では物足りない子と、学校教育では難しい子が必ずいるもので、それに手を差し伸べるのが塾なのである。
 しかし、考えてみると、違和感がある。学校の授業では、物足りない子が塾に行くことはわかる。ただ、学校の補習のために塾に通うのならば、学校とはどういうところなのだろうかと思うのだ。ましてや、無償の塾に需要が出てきているのなら、なおのこと学校の役割がよくわからなくなってくる。
 時代ごとの塾に対する考え方と問題点がどんどん変わり、最終的には昭和36年と比べて180度違うのではないかと思う。そして、一郎の事業を通して、学校の役割に疑問を呈しているのではないかと僕は思った。メインの話は塾なので、学校の様子はほとんど出てこないが、切り離せないところにお互いが位置している。文面には現れないそのジレンマが月と太陽であり、闇と光なのかもしれない。

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