MENU

【シリーズ】おすすめの1冊『希望の地図2018』重松 清

  • URLをコピーしました!

シリーズ『おすすめの1冊』第88回です。
僕がおすすめする本や、話題の本などをご紹介していきます。

今日、ご紹介するのは、重松清さんの「希望の地図2018」。

目次

『希望の地図2018』重松 清

内容と感想

 東日本から7年たった2018年3月、重松清は再び(「希望の地図」というタイトルで被災地をめぐり、本にしている。)被災地をまわった。いったいどこまでの人があの衝撃をリアルに覚えていることか。正直に言えばぼくは、被災地の大変な状況とは無縁の場所にいる。震災のことはもちろん覚えている。でもなにか覚えていると自信をもって言えない引っ掛かりが、確かにある。それどころか当事者の悲しみ、不安、困難など想像すらできていなかったことに気づかされた。僕は全く想像も考えることもしていなかったのだ。

 被災地の状況は瓦礫の積もっている状況と避難区域の広さ、原発の被害と、死者数の報道で知ることができた。しかし、そこで思考がストップしていた。

「まだ事故は歴史にはなっていないのだ。」

 この1文が7年経った状況と被災地以外の人々に訴えかける意味を同時に表していると思う。ぼくらの生活はただそこに住んでいるだけで成り立つものではない。復興とは家を建てて店を作っていくだけではない。コミュニティを築いていくということが核なのである。でも、避難指示が解除されてもすぐに帰れる状況でないことはさすがに想像できるだろう。家族のこと、仕事のこと、気持ちのことなど様々な障壁が立ちはだかっている。そこに労力を使う精神的体力が残っている人は本当にすごいと思う。町の活性化を目指して周りを巻き込みながら奮闘している方の記事は、そのエネルギーに圧倒される。

被災地は尽きない

 「被災地」は東北だけでない。熊本、北海道の地震、西日本の豪雨。死者数だけで見てしまうと決して想像することができない各地の被害がこの本には納められる。
 第8章『オレ、想像力、足りなかった』は、僕を含め災害からひと段落した雰囲気のある今の日本に突き刺さるタイトルと内容だと思う。豪雨の被害は死傷者や土砂だけではない。床下浸水によりカビが発生しやすくなった。家具を買い替えなければいけない。死ぬことも怪我もなかったけど逃げ道のない恐怖を味わった人の心細さ。これらはみな報道されない。無論、現地の状況を己がいる場所に当てはめて想像するしかないのだ。メディアでは報道されないのだから。災害は喉元過ぎれば熱さ忘れるではあってはいけない。そもそも現地の人は熱くて耐えられない状況を支えあいながら耐えている。いつまで耐えればいいのかわからないストレスと闘いながらだ。僕らはメディアの報道だけを見て感情をコントロールされてはならない。被災地の復興に8年という歳月はあまりにも短いのに、現地以外の人々が鮮明に覚えておくには長すぎるというジレンマがある。『希望の地図2018』は、少しでもそのジレンマを解消できるのではないかと思った。僕は僕の反省も込めてこの本を紹介します。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次